


VOHB コンセプト
VOHBはビンテージの製作手法に忠実に従い、ひとつずつ手作りで製作するダブルコイル・ハムバッカーです。
●キャラクターの土台としてのマグネットと型番
すでに知られているようにオリジナルP.A.Fのマグネットは一種類ではなく、初期のアルニコ3から2, 4, 5UOを経て後期の5まで、5種類が混在して使われました。
マグネットの種類の違いは、ピックアップの出音だけでなくピッキングへの反応にも影響する大事な要素です。しかしオリジナルを調べたくても、現実的にはマグネットはボビンの下に隠れている上に、仮に分解して取り出したとしても外見だけで種類を判別する事はほぼ不可能です。また、アルニコマグネットは鋳造で作られることから、製造時点で磁力のレベルや分布について個体差があり、その後の組込み段階での着磁レベルや、出荷後の使用環境による経時変化でも個体差が生じます。
上のような要素は外からは見えないにもかかわらず、直接ピックアップのキャラクターを左右しています。オリジナルではもともとピックアップ自体が希少な上に、基本部分ですでにこのように仕様が混在し、そこに経時変化が加わってもいるわけです。素晴らしい表現力を持ちながら誤解されやすく、一般的にオリジナルPAFの評価が様々なのはこの事が原因、と私は思っています。
正しい見方をすれば、それぞれのマグネットにそれぞれのキャラクターがあり、そのキャラクターが生きる相性の良い音楽ジャンルやプレイスタイルがあります。一般的にはPAF全体を一つのものとして捉える事が多いですが、実際にはマグネットを土台としていくつかに分かれた個性のグループ、と見た方がより正確です。
複雑な背景を持つマグネットも、個性の違いをしっかり理解すれば理想の音作りに積極的に使う事ができる、と私は考えます。こうした理由でトーンイズムのモデルでは、まずこれら数種類のマグネットを出音のキャラクターの土台、軸と考えることとしました。
ちなみにマグネットをキャラクターの土台とするもう一つの理由は、コイルと比べ後からの微調整が困難な点にあります。調整部分は磁力の強弱にほぼ限られ、それも何回かの段階的な作業が必要です。
モデルの型番には、イメージを掴みやすいようにマグネットの採用が始まった順番に57,58,59,60と代表的な年号をざっくりとあてはめました。(ちなみにオリジナルでは供給時期や現場での使用のタイミングのずれがあったので、ごく初期と後期を除いてはすべての年代で混在があります。)
作業の順番として軸となるP.A.Fスタイルの基本トーン部分をマグネットで決めた後は、その土台の上に時代と共に変化したコイルの細かな仕様の組み合わせと、経時変化のパターンを組み合わせてさらにキャラクターを作りこんでいきます。
●コイルのバリエーション
コイルはマグネットと並んでピックアップのキャラクターを決める2大要素の一つです。単独のコイルの巻きパターンによるキャラクターだけでなく、ハムバッカーでは2個のコイルが横並びで直列に接続されている事で、出音の倍音構成とピッキングレスポンスにまたがった独特の複雑な挙動が生み出されます。これがシングルコイルと違った大きな特長であり、魅力ともなっています。
オリジナルのコイルの仕様にばらつきがあった事は広く知られています。しかしコイルの外側には絶縁と保護のためのテープがしっかりと巻かれていて、マグネット同様外見からは比較判断ができません。またこのテープはオリジナルであることの証拠であり、ダメージ無しにはがすのが非常に困難なものです。ですから、今あえて比較評価だけのためにはがしてみる人はまずいない、という事になります。これがP.A.F.の評価が分かれる原因の2番目で、1番目のマグネットに加えてP.A.F.の謎をさらに深め理解を難しくしてしまう要素となっている、と私は思います。
実際のところはマグネット同様コイルでも、このばらつきこそがユニークなトーンを生む根源の部分です。ただし、コイルの本当のばらつきの仕組みを知るためには、外側からの電気的な計測だけでなくコイルテープの下のコイルそのもの、巻き数や巻きのパターン、使われたワイヤーのサイズのばらつき等も含めて調べる必要があります。
ここで先ほどのテープの下をどうやって調べるか、という問題がでてくるわけですが、トーンイズム立ち上げ前の段階で私にはビンテージ・ギターに深く関わる経験がありました。オリジナルPAFのリペア・レストア作業にも多くの時間を費やしましたが、その中でコイルの分解や巻き直しの作業があり、研究分析の結果と検証データの蓄積がありました。ピックアップ製作に向かう研究開発の段階では、このデータ検証の延長線上でばらつきパターンの再現テストの範囲を広げ,ノウハウをさらに深めていく事に重点をおきました。
コイルに関しては、バリエーションを生み出す”ずれ”の要素を次の数点に分ける事ができます。まず巻数の多さ(少なさ)、それから巻きの間隔やテンションのパターン、ワイヤー径、ワイヤーの被覆の種類等です。全ての要素が倍音構成に影響し、その結果は音圧、音の太さ、ドス(重さ、濁り)、ドライ感、ウェット感、明瞭感、透明感、輪郭、明るさ、きらびやかさ等の違いとなって表れます。製作にあたっては、これらいくつかのベクトルをレベル調整しながら同方向あるいは逆方向に混ぜ合わせる事で微妙なニュアンスを出していきます。
その他ハムバッカーならではのテクニックとして、2個のコイルの巻数のそろえ(ずらし)方という要素もあります。これには元々のデザインコンセプトでは2個の巻き数は同じはずだったものが、当時のPAFの生産現場の工程でずれが発生し、そこから生まれたトーンがユニークなものとなって後に認められた、という経緯があります。上の操作にこの要素を加え、2個のコイルのバランスを意図的に崩す事でさらにトーンを作りこむ事が可能となります。
●マグネットとコイルの統合
こうして作ったコイルの2個1組を、先に選定したマグネットの土台の上に組み上げていきます。その過程では要所要所でスペックをチェックし、必要であれば仮組みでテストします。
●セット組み上げ
ネックとブリッジのセットを作る場合はポジション間のバランスが取れているか、ミックス時のトーンがイメージ通り出ているか、についてもチェックします。
●パテントナンバー・タイプ #64
P.A.F後継のオリジナル・パテントナンバーへの移行が始まったのは61年ですが、トーンイズムではコイルとマグネットの仕様が安定した時期を選び、これもイメージとしては自然な年号をあてはめて、#64としています。
P.A.F.タイプとの違いはマグネットとコイル両方にあります。マグネットはショートタイプのアルニコ5、他のPAFタイプに使われたものよりハイパワーでメリハリがあります。コイルは2個のコイルの巻数をマッチングさせたもので、PAFタイプよりもややすっきりしたトーンのイメージです。またこのタイプはオリジナルに忠実にフロント、リアとも同仕様、同じパワーレベルとしています。
●新規製品 VOHBプラス
VOHBセットにはあらたに#58プラスが加わりました。アルニコ2ベースのセットですが、従来の#58セットとの違いはコイルのチューニングで、パワー感を上げながらも抜け感、歯切れを失わないような調整をしています。
●新規カテゴリー VHセット
VHセットはネックとブリッジポジションでマグネットの違うものを組み合わせたハムバッカー・セットです。
●単体モデル
単体モデルではコイルでのアウトプットレベルを型番にあてはめ、#0,#1、#2などとしています。数字が大きいほどコイルの巻数が多く、一般的にはパワーが上がって音が太くなります。ただしアルニコ5が仕様に入った場合は、それ自体が一段階高いパワー感を持っているので、ポジション間のバランスをとる時にそれを計算に入れる必要があります。5U(UO)の場合は同じアルニコ5でもほぼアルニコ3と同等のローパワーなのでその必要はありません。
本体共通の基本仕様
- コイルワイヤー AWG42プレーンエナメル
- ボビン ブチレート製 黒/黒、ゼブラ、クリーム/クリーム
- マグネット アルニコ2,3,4,5U(UO), 5S
- ベースプレート ジャーマンシルバー(洋銀)製
- リードワイヤー ビンテージ仕様プッシュバック、2ストランド網線シールド
- ポッティング 基本仕様では無し
- カバー 基本仕様では無し。別途ジャーマンシルバー(洋銀)製カバーを付けたバージョンも可能。
